東京高等裁判所 昭和60年(ネ)2034号 判決
控訴人は、本件印鑑登録証明書はいわゆる間接証明方式によるものであるから、人の同一性を推定する機能がないと主張する。たしかに、厳密にいうと、いわゆる間接証明方式による印鑑登録証明書の所持それ自体が人の同一性を推定する機能をもつかどうかは問題のあるところであるが、少くとも、本件の場合、さきに認定した事実(とりわけ、もと相被告梅澤が信貴に依頼して同人名義の印鑑登録証明書二通の交付を受けたことおよびもと相被告梅澤が山田に対しいったん右印鑑登録証明書二通を交付し、その後橋本を介してそのうちの使用されていないもの一通の返還を受けて、これを柏木公証人に提出したこと)によれば、信貴は自己の印鑑登録手帳を登録印章(いわゆる実印)と同様に厳重に所持、保管しており、埼玉県所沢市長も右印鑑登録証明書二通の交付申請をした者が信貴本人であり、かつ、同人が右の申請意思を有することを確認したうえこれを交付したこと、および、控訴人、柏木公証人らもそのように認識していたことを推認することができるのであって、右の事実によれば、本件印鑑登録証明書は、控訴人の指摘するようにいわゆる間接証明方式のものではあるが、登録印章(本件の場合、結果的には、精巧な偽造印であったが。)の所持、使用と相俟って、なお公証人法二八条二項にいう「嘱託人……ノ人違ナキコトヲ証明セシムル」手段であることを失わないというべきである。
(櫻井 増井 河本)